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国境
 はい、長念寺テレホン法話です。
 原爆が投下されて65回目の夏、初めて、藩国連事務総長や原爆を投下したア
メリカ合衆国のジョン・ルース駐日大使らが広島の平和記念式に出席しまし
た。オバマ大統領が打ち出した核廃絶へ向けての核軍縮の動きに連動するもの
で、呼応してイギリスやフランスからも代表が出席しています。
 そのニュースの裏で、アメリカで原爆投下機長の息子が不快感を露にしたな
ど、各国で種々の反応があったことが報道されました。アメリカにおいては、
広島長崎での原爆投下は、戦争を終結させるための正義の行為であり、その後
の犠牲を最小限に止めたとの理解が主流を占めています。大使の派遣が謝罪と
受け取られるようなことがあれば、原爆投下の意義を自ら否定することになる
というのです。
 ルース大使も無言で通すなど、アメリカの国内世論に配慮した姿勢を貫きま
した。
 韓国にも、日本は先の大戦の加害者であり、被爆という事実に特化して日本
が被害者であると主張していると感じられることに拒否感があることが報じら
れていました。藩国連事務総長は、あくまでも国連を代表しての出席でした
が、母国である韓国の世論を意識しないわけにはいかなかったのではないでし
ょうか。
 広島・長崎が発信する、唯一の被爆国としての核廃絶に向けての願いに対し
て、ナショナリズムという大きな壁を乗り越えることが如何に至難であるかを
再確認したことでもありました。
 菅首相は、日韓併合100年に当たり談話を発表し韓国に謝罪をしました。
そのことに対し、国内では「何度謝るのか」とか「自虐外交」などとの批判が
出ています。
 サッカーのワールドカップで、日本代表の活躍に酔った身で、口幅ったいよ
うな気もするのですが、スポーツにおける郷土愛のようなものとナショナリズ
ムは違うのではないでしょうか。確かに、勝ちゲームは何回見ても楽しいです
が……。
 三河の一向一揆について学んだ時にも思ったことですが、戦には多くの庶民
の犠牲が伴うものです。敵味方を問わず、抗うことのできない力の前で苦しみ
を背負わなければならなかった人々への視点を失ってはならないと思います。
過去の過ちは過ちとして認めるべきでありましょう。
 なぜ私たちは心の中にまで、国境を作ってしまうのでしょうか。世論同士で
いがみ合ってみても、それを構築するほとんどの人々は、戦争になれば、参謀
になることはできず戦場に放り出される一兵卒か、空しく翻弄される一庶民に
すぎないのです。
 「お浄土には国境はないよね。夢だとしても大事な理想だよね」これがお盆
で疲れ切った我が家のささやかな結論でした。
 次の法話テープの交換は9月1日です。