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平成22年12月1日〜

小説『親鸞』
 はい、長念寺テレホン法話です。
 五木寛之さんの『親鸞』、とても面白い本です。ストーリーの展開の面白さ
にグイグイ引き込まれてしまいます。
 しかし、新聞連載を読んでいてはじめの頃、ほとんどの人が感じた疑問があ
りました。「忠範っていったい誰のこと?」。次第にわかってきたことです
が、それは、この小説の中での親鸞聖人の幼名でした。
 私たちが知っている親鸞聖人のお名前は、比叡山時代の範宴、法然門下に入
って綽空そして善信、流罪後に名乗った親鸞というお名前です。また幼名が松
若丸であったという伝説もよく語られます。しかし、忠範という名は初めて聞
きますので最初は誰のことなのか分からないのは当然のこととも言えます。
 とはいえ、800年前のことですから、記録に残されていないものは分から
ないのが当然です。比叡山以前の聖人の生活に関する客観的な記録は、恵信尼
文書のなかに描かれている、堂僧であったということぐらいしかないのです。
若き日の聖人の周辺にどのような人々がいたのでしょうか。五木寛之さんは、
その点を自由に物語として描き出しています。特徴のある人物を創造し、鎌倉
時代の京の都の状況を生き生きと描き出しています。犬丸やつぶての弥七など
魅力ある人物描写にワクワクさせられてしまいます。恵信尼さまに妹がいたと
いう話も初めて聞くことです。安楽房いたってはかなりな悪者になっています
が、こんなに悪者にしてしまって、どこからか苦情が来るのではないのだろう
かなどと心配しながらも物語に引き込まれてしまいます。
 虚実織りまぜながら、若き日の親鸞聖人を浮かび上がらせ、内面的な葛藤や
成長を描き出しています。小説ですから史実をとやかく言う必要はないのでは
ないでしょうか。来年1月1日から東京新聞をはじめとして全国の地方紙に五
木寛之さんは、『親鸞』の続編である『親鸞激動編』の連載をすることが発表
されています。楽しみでなりません。
 親鸞聖人に関する小説は、いくつか出ています。最近では津本陽さんも書い
ています。過去には吉川英治さんや丹羽文雄さんのものもあります。しかし、
周辺人物など自由に描いているのは五木寛之さんの右に出るものはありませ
ん。史実を押さえて聖人の生涯を学ぶには不向きですが、小説としてはなんと
言っても面白いです。
 宗教書だけでなく小説や歴史書をいろいろと読みあさるのも、親鸞聖人に近
づく方法であるのではないでしょうか。
 次の法話テープの交換は12月16日です。