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平成25年3月1日

獅子身中の虫
 はい、長念寺テレホン法話です。
 親鸞聖人ご消息の第28通には、追伸部分があります。そこには、入信坊・
真浄坊・法信坊・性信坊・くげげどのなどの親鸞聖人が旧知の人々の名が出て
きます。おそらく、善鸞さんからのお手紙には、信願坊ほどには具体的な記載
はなくても、お念仏の御教えを誤って伝えているとの記述があったのでありま
しょう。
 親鸞聖人は、そのような人々に、先のお手紙を読み聞かせてほしいと書き添
えています。「かえすがえす不憫なことであります」と胸の内を告げ、特に性
信坊はこの春に京にのぼり直接語り合ったのにと慨嘆されています。
 名前のあがった人々は、関東の念仏集団の指導者たちの名前であります。親
鸞聖人は、善鸞さんに、この人たちが間違ったことを言っているとしても、道
理まで失われることはないと考えなければいけないと伝えています。
 たとえば、世間によくある例として、領家・地頭・名主が間違ったことをし
たとしても、百姓が一緒になって間違ったことをするようなことはない。お念
仏の信心をいただいている人々が、指導者たちの政治的な動きに惑わされて、
信心まで失うことはないのだから、この手紙を共に読み聞かせ、お念仏に生き
る身であることを、よくよくよろこびあってくださいと述べておられます。
 親鸞聖人は、まだ善鸞さんが関東でどのような動きをしているか知りませ
ん。しかし、その目が、念仏集団のセクト的な動きの方向に向いているという
ことを感じ始めておられるのではないかと思います。聖人は、その指導者たち
の動きに気をとられるよりも、念仏をよろこぶひとびとの方にこころを寄せて
いきます。善鸞さんに、「お念仏をひとびとと一緒によろこんでください。そ
れこそが私たちの勤めなのですよ」と重ねて伝えておられるのです。
 「仏法を滅ぼすことは誰にもできません。ただ、『獅子身中の虫』というよ
うに、念仏者の妨げになるのは仏法者の中から出てくるものなのです。善鸞あ
なた自身が、獅子身中の虫にならないように、よくよく心得て下さい」と。
 このお手紙(第28通)は、現代に生きる私たちにも、いろいろなヒントを
与えてくださる貴重なお手紙です。親鸞聖人の視点は、実に新鮮であり、鋭い
感性でものごとを捉えておられます。そして、仏法に基づいて、温かくそして
柔軟な指導をしてくださっています。現代の私たちにとりましても、そのまま
通用します。時代を超えてたどり着いた、親鸞聖人から私どもへくださったお
手紙であると思います。
 次の法話テープの交換は3月16日です。