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平成25年4月1日から

聖人が危惧されたこと
 はい、長念寺テレホン法話です。
 前回、『親鸞聖人御消息』第28通で、親鸞聖人は承元の法難の記憶をたどりながら善鸞さんに助言をされているとお話し申し上げました。承元の法難は、法然上人や親鸞聖人が流罪になった事件であり、法然門下で4人の僧侶が死罪になったと言われています。
 しかし、第28通では、裁きをした権力に対する言及はありません。獅子身中の虫とあるように、聖人の目は身内すなわち仏教者側の方を向いています。
 『教行信証』で、聖人は、
 「ひそかにおもんみれば、聖道の諸教は行証久しく廃れ、浄土の真宗は証道いま盛んなり。しかるに諸寺の釈門、教に昏くして真仮の門戸を知らず、洛都の儒林、行に迷ひて邪正の道路を弁ふることなし。ここをもつて、興福寺の学徒、太上天皇 [後鳥羽院と号す、諱尊成] 今上 [土御門院と号す、諱為仁] 聖暦、承元丁卯の歳、仲春上旬の候に奏達す。主上臣下、法に背き義に違し、忿りを成し怨みを結ぶ。これによりて、真宗興隆の大祖源空法師ならびに門徒数輩、罪科を考へず、猥りがはしく死罪に坐す。あるいは僧儀を改めて姓名を賜うて遠流に処す。予はその一つなり。」
と激烈な文章を書いておられます。
 ここの記述でも、その原因は仏教者の側です。「諸寺の釈門、教に昏くして真仮の門戸を知らず、洛都の儒林、行に迷ひて邪正の道路を弁ふることなし」であるからこそ、興福寺の学徒が朝廷に訴えたとあるのです。
 「主上臣下、法に背き義に違し、忿りを成し怨みを結ぶ」と大変厳しいのですが、第28通を読みますと、権力者が仏教者を害することはよくあることで、仏教の教えそのものが変えられてしまうようなことはないのだとされているのです。
 親鸞聖人が危惧されていたことは、内部から教えをねじ曲げていくものが出てくることでありました。しかし、聖人はまだ、関東の念仏者からそのようなものが生れてしまっているとのことに疑念を持っておられます。だからこそ、獅子身中の虫になるようなことがあってはならないとの言葉を送るのです。
 この手紙を受け取られた善鸞さんは、どのような気持ちだったのでしょうか。その後、善鸞さんの関東での言行が明らかになり、親鸞聖人は血を吐くような思いで義絶状を書かれ、関東の混乱は終結します。聖人84歳の時の出来事です。その後、聖人と善鸞さんの関係が修復したとの記録はありません。しかし、私は、この善鸞さん宛のお手紙が残されていることに救いを感じています。
 次の法話テープの交換は4月16日です。